この度に造園のご相談を戴きましたA様邸には建物2階エリアへ続く長い外通路が設けられており、構造物を用いていず土斜面と木杭階段で構成されておりました。

斜面と木杭階段による、2階部分への外通路

斜面と木杭階段による、2階部分への外通路

作庭イメージとしては階段の左右から木々が繁茂する瑞々しい景観づくりですが、まず重要なのは土表面が雨で削られ、川状になって流れてしまうのを防ぐ事になります。

単純に土留めを最優先するのであれば全体を何段階かの階段構造にするのが最良ですが、今回は斜面という形を活かしたまま、つまり丘庭という景観作りを行う為、土留めについては要所を確実に、目立たせず、そして景観の一部とする事も心掛けました。

階段脇に何か所か設ける大石による土留め

階段脇に何か所か設ける大石による土留め

まず階段の左右何か所かに大石による土留めを施し、これは高低差を付けた石組みの様な構造となります。
設置当初は非常に目立つ存在ですが、この時点から後に施す低木植栽との兼ね合いを考えておきます。
低木を植栽するに望ましいポイントは窪みを設けておき、尚且つ高木植栽の為のスペースは確実に残しておく必要があります。

立ち木と土留め石組みの配置

立ち木と土留め石組みの配置

施工場所全体が斜面である為、石組みにも自然な高低差が生まれて面白味のあるものとなります。

土留め石組みは低木と同じく立ち木との兼ね合いも良く、写真の様に立ち木の枝葉が石へ向かって枝垂れる様子はとても趣を感じられるものです。

基本的な土留めと植栽を終えた丘庭

基本的な土留めと植栽を終えた丘庭

基本的な土留めの骨格が整い、高木から低木まで植栽した様子です。

植栽にも高低差や色味の違いを付けており、植栽だけでも美しく整う様なデザインを行っていきます。

一見してほぼ完成に見える丘庭ですが、この状態ですと土面が露わとなっており、本降りの雨が降ると瞬く間に川が生まれて急速に土が流れ出す事になります。
仕上げとしては割石類を組み付ける様に敷いていき、残る土面は歩行部分も含め樹皮マルチングを行って保護とします。

完成した「雑木の丘庭」の景観

完成した「雑木の丘庭」の景観

細かな部分への割石土留め、土面へのマルチング保護を終えて完成した、雑木の丘庭の全景。

景観コンセプトでありました、緑の枝葉をくぐり抜けて歩く様な庭、左右から低木が繁茂し色も鮮やかな庭、という雰囲気は叶ったものになったかと思います。

陽射しが非常に良く当たるロケーションの為、雑木の足下を低木によって保護する事が重要で、これも低木を多用した理由の一つとなります。

低木については色味が鮮やかですので遠くから眺めれば洋風ガーデンの様な明るさを感じますが、自然な樹形を多用しておりますので非常にナチュラルな丘庭となっています。

雑木の枝葉を見上げる

雑木の枝葉を見上げる

歩きながら上を眺めれば、アオダモとアオハダの枝葉が左右から展開しています。

植栽場所はそれぞれ2m以上離れた間隔を持っていますが、上部の広がりに富んだ樹形を選ぶ事で、頭上ではそれぞれの枝葉が一体となって緑が包み込んできます。

根が十分に展開する前の雑木類は総じて葉が小さく薄く、ここから根の健全な生育を促していく事で葉も大きく丈夫に変化していき、ゆくゆくは木陰を形成する様な樹姿へ成長していきます。

雑木類は植栽した地表を保護しながら適切な湿潤を保っていく事が重要であり、植栽後の管理を伴うものと認識されるのが良いでしょう。

建物と丘庭のマッチング

建物と丘庭のマッチング

今回の作庭においては丘庭単体の景観ではなく、斜めからも見やすいという立地から建物とのマッチングも意識しておりました。

色鮮やかに見えた丘庭ですが、明るい色彩の多くは道路から離れたエリアへ多用しており、近くから眺めるこの近景エリアは緑色の葉を多用し、外壁沿いには常緑樹であるメラレウカ・スノーインサマーを植栽しています。
オージープランツについては植栽後も非常に水を欲しがるもので、丘庭下部へ配置する事で水やりや降雨により水量を得やすくなります。

割石レイアウトはこの最下部地点まで続いてくる訳ですが、終点となるこのエリアでは中粒と小粒の割石を組み合わせ、山間で見られる石景観を表現しています。

点在させている草は馴染み深い剛健なリュウノヒゲであり、乾燥もしやすいエリアに緑を添えます。
但し剛健とは言え草類でありますので、適宜散水は必要となります。
成長に伴い株が大きくなり、増えていく動きも見せますが、ゆっくりな速度であるのでこの様な道路沿いに向いていると言えるでしょう。

スノーインサマーが見え隠れさせる丘庭

スノーインサマーが見え隠れさせる丘庭

常緑樹であるスノーインサマーの植栽を取り入れたのは冬季景観保持の為でもありますが、やはり丘庭を見え隠れさせるような存在がひとつ加えたかったという所もあります。
もちろん全景を見ようと思えば奥まで見渡せるロケーションですが、やはり木の向こうに続く庭、というものは遠近感を感じられて美しいものです。

また、スノーインサマーは名前の通り初夏に咲く雪の様な白花が美しく、この庭の中では貴重な花木として引き立ちます。

樹姿も非常にナチュラルであり、一見して針葉樹であるかの様な葉は涼しさも感じさせてくれます。
雑木類の中に溶け込む常緑樹として貴重な存在と言えるのではないでしょうか。

割石による自然で美しい土留め

割石による自然で美しい土留め

地表保護と土留めを兼ねた割石は、一つ一つ組み合わせる様に据え付けてあります。
単順に置く、撒く、という事を行いますと当然にまず至る所に隙間が大きく空き、強過ぎる高低差も生まれて不自然な仕上がりになってしまいます。
もちろん石がゴロゴロとした景もまた自然という見方も出来ますが、斜面である丘庭では割石が容易に動く、転がる、といった事は安全上避けなければなりません。

割石の隙間から広がっていくクリーピングタイム

割石の隙間から広がっていくクリーピングタイム

割石が多く置かれた丘庭ですが、実際は後々割石が緑に隠れていく様な植栽計画も含まれています。

割石から顔を出す様に植栽されたクリーピングタイムは丘庭に40株程点在させてあり、旺盛な生育と共に陽の差す方向へ茎を伸ばしていきます。

この葉に覆われた様な割石景観は非常に美しく、石と緑の割合が半々になるまでさほど年月を必要としません。
花期の4~6月は足元がクリーピングタイムの小花でピンク色に染まり、季節による景観変化も存分に楽しめる丘庭になっていきます。

写真にある低木はビバーナム・ティヌスであり、これは環境適応性も高い剛健種と言える樹種です。
ある程度の乾燥には動じす丈夫で、白い小花が集合して咲く様も美しく、その後は青銀色の実も楽しむ事が出来ます。

花々も存分に楽しめる丘庭

花々も存分に楽しめる丘庭

この丘庭では葉色を楽しむカラーリーフ低木を多用していますが、花々も楽しめる植栽を行っています。

写真のアナベルもある程度大きく育てられるポイントを選んでレイアウトしており、その他にもアベリアやアロニア、マルバシャリンバイやトベラ、ビバーナム・ダビディやトキワエゴノキなど、花を見せる木々は各所にレイアウトされています。

条件が非常に厳しいとも言える斜面での作庭ですが、構造物を限りなく除外した自然味溢れる景観作りの舞台ともなり得ます。

丘庭の植栽は平庭と異なり奥の方の木々も容易に視界に入る為、今回の庭が彩り豊かに見えるのもこの効果と言えます。
但し地面への陽当たりは非常に強い環境となりますので、特に低木類については剛健種を選んで適宜レイアウトを行うのがお勧めです。

条件によっては難しくなる丘庭作りですが、この様なスペースをどう活かすか、お悩みの方はご相談をいただければと思います。

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