杉並区S様邸は家屋のリフォームを行われ、このタイミングで玄関アプローチへ和風の庭を製作するご依頼を戴きました。
アプローチには古くからある飛び石が設置されておりましたが、今回はこちらを再利用し、陽射しの少ない環境を考慮した和風の通り庭をお作りする事になりました。

造園施工前の様子
既存飛石は幅50cmクラスの大判で、近年ではあまり見かけないサイズとも言えます。
良い飛び石ではあるのですが設置間隔が広く歩きにくく、直線に並べているという点も使い勝手が悪くなります。
飛石の再設置については幅をもう少し詰め、左右に振る様な動きを付ける事とします。

植栽とアプローチを明確に分けた通り庭
和風の通り庭が完成し、飛び石も歩きやすくアレンジしました。
限られた枚数で歩幅を詰める為、まず出発点に趣向が明確に異なる敷石を追加して距離を稼ぎ、飛び石同士の間隔を小さくしています。
和庭の飛び石の間隔は一般的に9cm~15cmが適切であると考えており、この範囲内の間隔ですと足の運びもストレス無く自然な動きとなります。
お庭のデザインとしては和庭の持ち味である庭石(鳥海石)や御影石のピンコロを用いてエリア分けを行っており、一見して歩行部分と植栽部が融合していますが、実際は明確な区切りが行われています。
和庭の中でシンボルツリーの役割を担うのはソヨゴの株立ちで、通常であれば通り庭の中央や奥に配置する所、今回は和庭のデザインを内側から眺める構成の為、目隠し効果も兼ねて手前へ植栽しています。

玄関ドア付近を目隠しするソヨゴ
ソヨゴは日陰地でも下までしっかり枝葉が残りやすい為、この様に庭デザインをあえて隠す、暈す、といったシチュエーションでも活躍します。
ソヨゴは暗い場所でも青々とした葉を付け、風通しを呼ぶ透け感も有し、こちらの様に樹高が2.5m程あっても圧迫感が少ないのがメリットです。
ソヨゴの向こうに施された和庭デザインを外側から解り難くしており、玄関ドアを開けた際の軽い目隠し効果もしっかり担っています。
こちらの通り庭は左手に見えるリビング窓や玄関側から眺める為の作りとなっており、道路からの景観は簡素にまとめています。

ソヨゴの奥へ和庭デザインを集約
添景物として岬灯篭を採用しておりますが、これは植栽による目隠し効果で外から存在が解らない様になっており、こちらが内側から眺める為の和庭である事を示したデザインと言えます。
常緑性の下草を多用した足元は瑞々しく緑が溢れており、多めに使用している石類の存在感を中和してくれます。
アプローチと植栽エリアが融合して見えるのはスナゴケによる繋ぎ効果であり、飛び石の四角いディテールを和らげる効果も得ています。

内側から見る和庭の風情
内側から見る和庭は動きに溢れており、鳥海石組みのリズムや御影ピンコロ石の曲線模様が融合します。
小さな庭の中でも石組みには高低差と揺らしを設ける事が大切で、奥行き1m以下とは思えない奥深さを演出する事が出来ます。
撮影が冬期でしたので落葉樹に葉がありませんが、こちらへはコハウチワカエデとアロニア(セイヨウカマツカ)といった、季節感に富んだ落葉樹をレイアウトしています。
構図としては岬灯篭の上にコハウチワカエデの葉が揺れ、アロニアは春の小花や秋の紅葉を添えてくれるイメージです。
和庭では積極的にモミジ等のカエデ類が取り入られがちですが、注意点として「モミジは日陰に入ると早く樹高を上げてくる」という点です。
実の所人の背丈程の樹高で維持できる落葉樹種は比較的限られており、植栽当初のイメージがそのまま維持出来るかどうかは非常に重要なポイントになります。
ですので日陰の和庭で落葉樹を取り入れる場合は、
・生育が緩やかな樹種を選ぶ
・最初から樹高は高い木とし、枝葉が少なくすっきりとした樹形を選ぶ
という二択が望ましいと考えます。

リビングから眺める岬灯篭周りのデザイン
しっかりと各所へ高低差を付けたデザイン性は、低い位置から眺めると更に明確なものとなり、各資材の存在感が増して見えるものです。
和庭では特に素材の下部、地面との境目部分に美観を感じる様に工夫をするもので、特に石組みを美しく見せるにも地面への収まり具合が肝心となります。
ピンコロ石についても花壇の縁取りとしての用途を除き、高過ぎず埋め過ぎずの感覚が美しく見えます。
岬灯篭については安定感の演出と高さ出しの効果を得る為、据え付け後も9cmの高さを保てる厚い甲州鞍馬石の台石上に据え付けています。
室内の窓越しに座って楽しむ風景は、ここからだけ楽しめる、そんな坪庭の様な風情を大切に考えてみました。