ヒメシャラはツバキ科・ナツツバキ属の落葉樹であり、近年は住宅のお庭にもよく植えられる様になりました。
一昔前ですとシャラノキがよく見られましたが、近年ではより繊細でやや生育しやすいヒメシャラの人気が高まっております。

爽やかなヒメシャラの枝葉

爽やかなヒメシャラの枝葉

雑木といえば野趣溢れる幹や逞しさを連想させますが、ヒメシャラは幹や枝も細く繊細で、高原の様な雰囲気を醸し出します。

雑木の庭はもちろん、使い様によっては和風デザインのお庭へも植栽をする事もあります。

ヒメシャラの基本データ

  • 科名と属名 ツバキ科・ナツツバキ属
  • 学名 Stewartia monadelpha
  • 別名 ヤマシチャ アカラギ サルタノキ
  • 分類 落葉広葉樹 小高木
  • 放任樹高 12m~15m
  • 原産地 日本(本州中部より西)
  • 開花期 6月~7月

ナツツバキ(シャラノキ)と比べて葉が小さく枝も細く繊細な事から「姫(ヒメ)」を冠して呼ばれる様に。

箱根のヒメシャラ原生林が有名で、ヒメシャラ本来の美しい幹肌を観察する事が出来ます。
この赤褐色の美しい幹肌から、アカラギと呼ばれる事もあります。

 

ヒメシャラとシャラノキの違い

シャラノキとの違いは、葉のある時期ですと非常にわかりやすいかと思います。
葉の大きさは明確に異なり、ヒメシャラの方が小さな葉をしています。

葉で見分ける

ヒメシャラの葉

ヒメシャラの葉

ヒメシャラの葉はやや細く、触れた際も細毛の感触を感じにくい特徴があります。
シャラはいわゆる「ナツツバキ」でありますが、ヒメシャラの葉はツバキには似ていない印象があります。

シャラ(ナツツバキ)の葉

シャラ(ナツツバキ)の葉

シャラノキの葉はヒメシャラよりも大きく、葉脈もはっきりとしています。
葉の印象もどことなくツバキと似ており、「落葉のツバキ」という印象があります。
触れた際は細かい毛の感触がありますので、ヒメシャラとの明確な違いがわかります。

幹で見分ける

ヒメシャラもシャラノキも幹肌が美しい事で知られていますが、この幹にも違いがあります。

ヒメシャラの幹

ヒメシャラの幹

ヒメシャラの幹は成長と共に皮が剥けていく為、常に新しい幹肌を見る事が出来ます。
この皮の剥け方ですが、ヒメシャラは剥ける皮が非常に薄く、細かい毛が抜けていく様な剥け方を見せます。

シャラノキの幹

シャラノキの幹

一方、シャラノキの幹は剥ける際にパリっとした皮が剥がれる印象です。
この為、幹皮の剥け跡が斑模様として残りやすく、これはこれで美しいものでもあります。

しかしヒメシャラもシャラノキも、適切な環境でなければ美しい幹肌を見る事は出来ません。
むしろ、幹肌が美しい状態であれば適切な環境である、という指標にもなり得ます。

樹形の違い

樹形にも異なる印象があります。
シャラノキは斜め上方へ伸びた枝がそのまま樹形を作っているケースが多いのですが、ヒメシャラの場合は上方へ伸びた枝が柔らかい為、枝垂れやすい傾向があります。

この為、ヒメシャラの方はある程度の大きさになると枝が下へ垂れている様な樹形になります。

 

ヒメシャラの特徴

ヒメシャラは日本の落葉樹らしい美しい樹姿を見せてくれる他、6月の白花、うっすらと色付く紅葉も楽しむ事が出来る庭木です。

庭づくりのデザインにも積極的に取り入れたい庭木ですが、まずはヒメシャラの特徴を見てまいりましょう。

美しい新緑

ヒメシャラは細かな枝を持つ為、新たに新芽が出て葉が開く時期も美しいものです。

ヒメシャラの新芽展開

ヒメシャラの新芽展開

柔らかく赤み掛かった新芽の展開は、イロハモミジなどと比べますとゆっくりした速度で行われている感じを受けます。

ヒメシャラの新緑

ヒメシャラの新緑

ヒメシャラは葉が小さくても葉の数が多い為、決して寂しげに見える庭木ではありません。
新緑時はこの様に葉の充実した美しい姿を見る事ができ、お庭へ植栽すれば春の季節感を感じる事が出来るでしょう。

 

美しい幹肌

先にも述べておりますが、ヒメシャラの見所として有名なのが幹の美しさです。

しかし美しい幹肌にする為には、
・幹や植え付け地表に直射日光が当たりにくい事
・土が適切な湿潤を保ち続ける事
等などの条件が必要であり、これに伴って成長したヒメシャラは、美しい幹皮の更新を見せてくれます。

適切な環境で育つヒメシャラの幹

適切な環境で育つヒメシャラの幹

細かく幹皮が剥けた樹皮は滑らかで赤褐色をしている事から、アカラギという別名も持ちます。
シャラノキも赤味を帯びた部分を見る事が出来ますが、ヒメシャラの幹は全体的に赤味を帯びます。

自然の中で育ったヒメシャラの幹

自然の中で育ったヒメシャラの幹

写真は幹直径が20cm程まで成長した植栽用のヒメシャラですが、非常に美しい幹の色を見せています。

柔らかく非常に薄い幹皮が粉の様に剥け続けてる為、常に滑らかな肌触りである事も特徴です。

この様に山間に近い環境で自然に育てられるお庭であれば、ヒメシャラは自然な美しさを楽しめるおすすめの庭木です。

自生するヒメシャラの美しい幹

自生するヒメシャラの美しい幹

こちらは自生するヒメシャラを撮影したもので、幹直径は実に40cm以上あります。

完全に自然の中で育ったヒメシャラの幹は、まるで色が塗られたかの様な発色を見せ、林の中で異質な存在にも見えます。

ここまで成長したヒメシャラの幹は非常に滑らかで、日光に当たる部分は光沢も放つ程です。

 

ヒメシャラの花と実

ヒメシャラは雌雄同株の植物で、6~7月の梅雨時期に花を咲かせます。
花の直径は約2cm~2.5cm程の白い小花で、花弁を5枚持つ両性花です。

白く小さなヒメシャラの花

白く小さなヒメシャラの花

ナツツバキ属であるだけにツバキに似た形の花ですが、繊細な枝にたくさんの花を付ける為、下垂した枝に咲く様はとても美しい景観になります。
ですが花の散りが早く、そこがまた可憐な印象を感じさせます。

ヒメシャラは多くの花を咲かせる為、その後に付く実の数も多くなります。

ヒメシャラの実

ヒメシャラの実

実は枝全体に数多く付き、成熟すると中にある種がこぼれます。

種が無くなった後も、ヒメシャラの実は殻となって枝に付き続けているのが特徴で、落葉をした後もびっしりと実が付いたままに見えるのはヒメシャラの特徴とも言えるでしょう。

実の殻は意外にもしっかりと付いており、落葉期に行う枝透かしの際に手作業で取り除く事が一般的です。

もちろん実の殻は自然に付いたままでも構いませんので、殻が付いたヒメシャラの姿を味わうのも良いでしょう。

 

ヒメシャラの紅葉

ヒメシャラも環境によりオレンジ~真紅まで、秋の色付きを見せます。
住宅のお庭では年によって色付き方が異なる事もありますが、木が生長して落ち着くと色づきも安定してきます。

紅葉し始める頃のヒメシャラ

色付き始めのヒメシャラは葉色がランダムに染まり、雑木らしい風情を見せてくれます。

紅葉の色付きを始めるヒメシャラの葉

紅葉の色付きを始めるヒメシャラの葉

ヒメシャラの枝は横へ広がって下垂している事が多い為、この様な枝垂れた紅葉を見る事が出来ます。
この印象としては紅葉の代表格であるイロハモミジに似た風情を感じられます。

ヒメシャラの紅葉を見上げる

ヒメシャラの紅葉を見上げる

樹高のあるヒメシャラであれば、この様に頭上に紅葉が展開する様子を楽しむ事が出来ます。

染まりきった紅葉を見せるヒメシャラ

ヒメシャラの紅葉

ヒメシャラの紅葉

住宅で紅葉を見せるヒメシャラ。繊細な枝葉もよく見える自然樹形が赤く染まる様はとても美しいです。
夏に強い葉焼け・乾燥を起こさない環境であれば、秋まで健全な葉を保つ事ができ、綺麗な色付きに繋がります。

 

ヒメシャラの樹形:株立ちと単幹(一本幹)

ヒメシャラはナチュラルガーデンでも使われる雑木でありますものの、樹形は株立ちと単幹(一本幹)の両方が流通する庭木です。

これはイロハモミジと同じく、庭づくりのデザイン性や環境考慮によって樹形を選ぶ事となります。

ヒメシャラの株立ち

株立ち樹形のヒメシャラは均等な太さの幹が集合しているケースが多く、「均整の取れた」印象となります。

株立ちのヒメシャラ

株立ちのヒメシャラ

自然樹形というよりは美しく作られた雑木という雰囲気であり、この樹形の場合はヒメシャラを独立して見せたい場合に有効と言えます。

ヒメシャラだけの植栽で雑木林風に見せたい場合や、植える場所が限られている際に賑やかさを出したい場合におすすめな樹形です。

ヒメシャラの単幹(一本幹)

一本幹で仕立てられたヒメシャラは、私もよく扱う樹形です。
株立ち樹形と異なり、一本幹の場合は本当に出来の良い樹形であるかどうかが如実に表れる事となります。

雑木ガーデンに溶け込む一本幹のヒメシャラ

雑木ガーデンに溶け込む一本幹のヒメシャラ

一本幹のヒメシャラは自然の状態に近く、雑木類を寄せ植えするナチュラルガーデンにも良く馴染んでくれます。
しかも単幹樹形は株立ち樹形よりも幹に対する根の大きさがあり、成長もやや剛健であると思います。

 

ヒメシャラの成長傾向

ヒメシャラはシャラと異なり枝を上へ伸ばすという解釈をされる事もありますが、経験上やはり横方向へ伸びる傾向はあります。
斜め上へ伸びた枝も、枝が細い為にしなって下を向き始め、やがて枝垂れていくといった樹形が多く見られます。

伸びた枝が枝垂れ状に見えるヒメシャラ

伸びた枝が枝垂れ状に見えるヒメシャラ

反面、全く枝垂れず真上へ向かっていく枝は徒長枝である事が多く、これは太くなる前に外しておくことをお勧めします。
枝が太くなってからの剪定は切り口の直径も大きくなり、保護剤の塗布が必須となります。

よく言われる様に剪定自体をあまり好まない植木ですので、植栽の際は雑木類としてのびのびと成長させてあげられる場所を選びましょう。

 

自然に成長して育ったヒメシャラ

自然に成長した樹高8m超のヒメシャラ

自然に成長した樹高8m超のヒメシャラ

自然に成長したヒメシャラは樹高を支える幹が立派に太り、美しい樹形を見せてくれます。

樹高が8m前後のヒメシャラは需要も少ない為、良い木をお探しする事が難しいのですが、写真の様なヒメシャラの大木もご用意する事は可能です。

自生するヒメシャラの樹形

自生するヒメシャラの樹形

自生するヒメシャラは林の中で日光を求めて育つ為、樹高は15m程に達します。

日の当たりにくい部分は枝が無くなって幹だけとなり、その幹は美しい発色を見せる様になります。

ヒメシャラは樹高が高くなるにつれて細長い樹形になっていきます。
これは枝葉が斜め上方向へ成長する事が理由ですが、自然に保たれた小枝は柔らかく枝垂れ、写真の様に優しい雰囲気を感じさせます。

 

ヒメシャラをシンボルツリーに

上で解説を致しました様な環境を選び、乾燥を防ぐ工夫をしてあれば、ヒメシャラは美しいシンボルツリーとしてお住まいに取り入れる事が出来ます。

ヒメシャラをシンボルツリーにしますとお住まいの雰囲気が優しい印象となり、尚且つ雑木の持つナチュラル感を取り入れる事にも繋がります。

ヒメシャラであれば和風・洋風を問わずあらゆるお住まいにマッチするのではないでしょうか。

洋風ガーデンのシンボルとして

ヒメシャラ特有の透け感と清涼感は、洋風のお住まいやガーデンに似合います。

洋風ガーデンに佇むシンボルツリーに

洋風ガーデンに佇むシンボルツリーに

ヒメシャラのシルエットは軽い為、3~4mサイズの木を植栽しても圧迫感はありません。
むしろ樹高を低く留めようする程に自然味は失われていきますので、「放任するシンボルツリー」として植栽するのが良いでしょう。

建物に大きなヒメシャラを寄せてシンボルツリーに

大きなヒメシャラをシンボルツリーに

大きなヒメシャラをシンボルツリーに

こちらは樹高5mクラスのヒメシャラをお住まいに寄せ、シンボルツリーとして植栽を行っています。

ヒメシャラの株立ち樹形は幹の本数も豊富であり、2~3本の株から写真の様に10本近くの幹数が存在する樹形も流通しています。

これはヤマボウシとも共通する所ですが、ヒメシャラの方が幹や枝が細い場合が多く、繊細な風景をご希望の際は大変おすすめと言えます。

しかし建物に寄せる場合は一部の風通しが悪くなる事も考えられ、毛虫(チャドクガ)の発生を予防する必要が生じます。

予防対策として梅雨明けに農薬を散布しておく事が有効ですので、ヒメシャラの植栽計画時にはこれも考慮しておくのが良いでしょう。

 

単幹樹形をシンボルツリーに

先にご紹介を致しました単幹樹形、いわゆる一本幹のヒメシャラは自生する姿そのものを楽しむ事ができ、もちろんシンボルツリーとしても活躍します。

一本幹のヒメシャラをシンボルツリーに

一本幹のヒメシャラをシンボルツリーに

こちらは明るく開けた北側へヒメシャラを植栽しております。
北側玄関のお住まいは珍しくございませんので、広いスペースがあればヒメシャラをシンボルツリーとしておすすめ出来ます。

自由に成長させた枝はやがて重みで枝垂れてきますので、早い段階で立派なシンボルツリーとしてお住まいを引き立ててくれます。

意外にも向く、マンションのシンボルツリー

強い日差しが苦手であるヒメシャラですが、あまりにも暗い日陰や風通しが滞ってしまう狭小部ですとやはり健全な生育は出来ません。

病気にもなりやすく、枝枯れも顕著に表れる様になります。

マンション北側へシンボルツリーとして

マンション北側へシンボルツリーとして

しかし写真の様に広く開けた日陰ですとヒメシャラはシンボルツリーとして植栽しても非常に良い生育を見せます。

マンション北側等が典型的な例であり、周囲が広く開けていながらも強い日光が遮断される、いわゆる山間部斜面の様な日照条件と言えるでしょうか。

幹元を低木の寄せ植えで覆い被せる事で保護にもなり、冬季落葉時の景観補助にもなります。

理想的な日照条件さえあれば、ヒメシャラはとてもナチュラルなシンボルツリーとしておすすめ出来ます。

 

尚、ヒメシャラに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。

 

ヒメシャラにおすすめな植栽方法

ヒメシャラは繊細で優しい印象を与える為、お住まいのシンボルツリーとして植栽する事もありますが、先にご説明の様に夏場の直射日光が当たり続ける場所は避けなければなりません。

玄関横に元気に大きく育ったヒメシャラを見かける事がありますが、大抵は北~東向きの壁沿いなどに位置しております。
また、サツキ・ツツジ類の寄せ植えによってヒメシャラの足下を綺麗にカバーされている事も多いです。これはしっかりとした地表保護が幹を守り、乾燥を防ぐ事が効果的である事が解ります。

ヒメシャラを南庭で植栽をする場合は、他種の雑木類を周囲に植えて日光を軽減するなどの工夫が必要となります。

半日陰に作る雑木林にヒメシャラを

雑木林に見立てたヒメシャラの植栽

雑木林に見立てたヒメシャラの植栽

ヒメシャラは単体植えだけではなく、標高が高めの雑木林の様な風景を作る植栽も有効です。
上の様にヤマボウシなどの雑木類と共に植栽をする事で、他の常緑樹では演出しにくい清涼感を出す事が出来ます。

 

ウッドデッキと合わせてナチュラルガーデンらしさを

ヒメシャラは枝葉が細かい為、よほど枝が混んでない限りは木の向こうまで透けて見えます。
この景観を活かせばヒメシャラ越しにお庭を眺める景色を作ることができ、遠近法を活かした奥深いお庭をデザインできます。

ウッドデッキ越しに植栽したヒメシャラ

ウッドデッキ越しに植栽したヒメシャラ

ヒメシャラの足下は低木・下草を繁茂させており、乾燥対策と景観向上を両立させています。
程よく透けてお庭が見通せる為、夏には清涼感を感じさせ、冬季は葉を落としてウッドデッキへ日差しを取り入れてくれます。

自然石や低木との組み合わせ

ヒメシャラはその自然樹形から、和風・洋風を問わずに庭デザインへ取り入れる事が出来ます。

石や下草といえば和風庭園を連想されるかもしれませんが、ヒメシャラとこれらの素材を組み合わせた場合、作り過ぎない自然な風景に近いデザインとなります。

自然石や下草との組み合わせも

自然石や下草との組み合わせも

ヒメシャラの繊細な樹形は自然石と良く似合い、「山林を散策している様な庭」の様見せる事が出来ます。

乾燥を防ぐ下草や低木は必要不可欠な植栽ながら、ヒメシャラの持つナチュラル感を一層引き立ててくれる事がお解りいただけるかと思います。

 

ヒメシャラの育て方

適した場所と土質

ヒメシャラは強い直射日光や西日は厳禁であり、これは植栽時に環境を確認する必要があります。

強い日差しを受けたヒメシャラはまず葉焼けを起こしますが、その枝が翌年芽吹かないという事がよく見られます。
もちろんシャラノキも同様の傾向があり、「上から順に枯れてくる」というシャラ独特の枯れ方が見られるのは、多くはこの理由にあります。

ヒメシャラを植えるに適した場所は、

  • 日差しが半日当たる東側
  • 明るく開けた北側
  • 地表が軽く湿っている場所

が特におすすめではありますが、地表に直射日光が当たりにくい環境であれば南側でも適応します。

土壌改良

ヒメシャラは非常に乾燥に弱く、乾燥状態である木は見た目にもすぐに表れます。
植栽する場所は地表が乾きにくい湿潤地を選ぶ事が必要で、植え付け時には湿潤を保つ様に腐葉土を多く混ぜ込む土壌改良が有効となります。

陽射しや乾燥を防ぐ工夫

乾燥状態を防ぐ方法としては植栽場所の検討の他、ヒメシャラの周囲へ低木や宿根草等で寄せ植えし、植物が群生して繁茂する環境を作る事が有効です。

植物が群生する事でヒメシャラの乾燥を防ぐ

植物が群生する事でヒメシャラの乾燥を防ぐ

他の低木落葉樹の他、クリスマスローズやリュウノヒゲ、宿根草のギボウシやシラン等も交えて群生を作った植栽例です。

この状態であれば乾燥も起こしにくく、散水した水が蒸発するのも遅らせる事が可能です。
何よりもお庭としての景観面でも有効な方法と言えます。

植え付け

ご自身で苗木を植え付ける際は、落葉樹の基本に習い、落葉している間に行います。

適期は12月~4月初めの間ですが、1月~2月の厳寒期は避けるのが望ましいとされています。

横向きの浅い根を充実させる為にも、植え付けは深過ぎない様に気を付けましょう。

深すぎる植え付けは幹まで埋める事になり、幹の元が腐ってしまう事もあります。

水やり・肥料

ヒメシャラは乾燥に弱い木だという事は常に意識し、地表の乾燥を放置しない様に水やりを行います。

夏場は適度な湿潤を保つ様に、夕方以降の散水は日課にしても良いと思います。

ヒメシャラは植え付けの土や周囲の土壌が腐植質であれば特別肥料は必要としません。

しかしヒメシャラは成長が軌道に乗るまで時間を要する事も多く、これを促す為に、落葉休眠期に周囲へ堆肥や遅効性肥料を浅く埋める事もあります。

 

ヒメシャラの剪定方法

ヒメシャラを植栽する際はまず自由にある程度伸ばせる事を想定してある筈ですので、基本的にはローメンテナンスな庭木と言えます。

剪定時期と切り口の保護

基本的には落葉して休眠している冬季に行います。

夏季は切り口から雑菌が入りやすい事もあります。

時期に関わらずヒメシャラは切り口の保護が必須な木ですので、大き目な切り跡には保護の薬剤「カットパスター」や「トップジン」等を塗布しましょう。
これらは「癒合剤」と呼ばれる塗り薬で、ホームセンターや通信販売でも簡単に買う事が出来ます。

枝透かし剪定を中心に

健康に根付いて伸びも強まってきたあたりで、小枝に上から重なってくる様な枝を元から取り除く剪定を行います。
剪定の際は、枝先にはほとんど触れる事はありません。

背の高さも急に下げる事は避け、枝を「外す」という意識で少しずつ行っていく事が大切です。

枝の途中でのカットは、他の庭木ならそこからの強い再成長を促してしまうのですが、ヒメシャラの場合はその枝がそのまま枯れてしまう事があります。

剪定は、重なり合う枝や樹形を乱す枝を取り外すという目的に絞り、整形などは考えない様にすると良いでしょう。

枝透かしのみで整えるヒメシャラ剪定

枝透かしのみで整えるヒメシャラ剪定

こちらのヒメシャラは幅や高さを切り詰める事はせずに更新のみを行い、各所の枝分かれ数を2~3又まで減らす様にする枝透かしによって仕上げました。
同時に内側へ絡んでいく事が予想される枝も元から取り払う事で、切り痕の目立たない自然な木に見せる事が出来ます。

枯れた小枝の取り除き

ヒメシャラは健康に育っていても、内側や下部の小枝を多く枯らします。
冬季ですと生きている枝との区別がつきにくい為、素手で触れて軽い力で取れてしまう枝は枯れ枝として処分します。

または新緑の5~6月頃ですと芽の出ない枯れ枝の区別が付きやすいので、この頃に取り除いてあげるのもおすすめです。
葉が十分に展開してしまいますと、枯れ枝探しを行いにくくなりますので注意が必要です。

 

ヒメシャラで注意したい病気・害虫(毛虫)

ヒメシャラは毛虫(イラガ)に要注意ですが、周囲にある庭木や環境によってはチャドクガが発生する事があります。

チャドクガはツバキやサザンカだけに発生するものと思われがちですが、ツバキ科であるシャラノキとヒメシャラにも発生してしまう場合があります。

梅雨明け頃、発生初期はほんの一部分の食害から始まる為、目難い場所や高い位置を観察し、不自然に葉が一部変色していないかどうかを確かめます。

チャドクガの発生時は体長5mm程の大きさの個体が何匹も集まっておりますので、その枝を取り払って処分する事が効果的です。

チャドクガの予防と対策

発生歴のあるヒメシャラはその環境上毎年繰り返し発生する可能性が高い為、一度チャドクガが発生したヒメシャラは翌年から予防目的の農薬散布を行う事をお勧め致します。

予防で農薬散布を行う場合は、ヒメシャラの上から下、地面付近まで全てに薬剤を行き渡らせます。

薬害による葉焼けを防ぐ為、農薬の散布は夕方辺りに行いましょう。

 

ヒメシャラのポイントまとめ

ここまでご紹介をしてまいりましたヒメシャラですが、庭木としておすすめ出来るポイントと注意したいポイントをまとめます。

おすすめなポイント

  • 柔らかな枝が清々しく、繊細な雰囲気を楽しめる
  • 梅雨時期に咲く小花が美しい
  • 健全に生育すると赤褐色の幹が非常に美しい

注意したいポイント

  • 剪定を好まない為、植栽場所を選ぶ
  • 強い日差しにとても弱く、枯れてしまうケースも多い
  • イラガやチャドクガ等、人にも有害な毛虫の発生に注意が必要

 

如何でしたでしょうか。

ヒメシャラは自然そのままの美しい樹姿が魅力であり、環境さえ適合するのであれば是非庭木として取り入れていただきたい落葉樹です。

ご説明も致しましたが、他の雑木を寄せて植栽する、低木で地表をカバーする、等の処置を行えばより健康に育つ可能性もありますので、植栽の組み合わせも視野に入れてご検討いただければと思います。

 

執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)

執筆者:新美雅之庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。
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